健康格差 第9章

担当:東

8章は地域のSDH。9章は国家、10章は国際社会と、より広い社会でのSDHを見ていきます。健康によい国のあり方とはどんなものでしょうか。北欧に学んじゃいます。

■国家単位での社会制度は健康にとって大事

社会のあり方が健康、生存に影響を与えることを示す4つの例:ハイチとチリの地震、米英健康戦争、インドとバングラデシュ、ロシアとアイスランドの比較。

再確認:健康の公平性はそれ自体価値があるし、これまでの章で見た通り、良き社会の指標にもなる。

 

■先んず一言:右派と左派

「主義の旗を振ってバリケードに乗っかるよりも、個人の権利と公共分野の要請のバランスをどうとるかについて、根拠を検討するべきだ。…市場と国家機関の両者が不可欠であることに疑いの余地はない」

 

■The Nordic Experience: Welfare States and Public Health (NEWSグループ)論文

社会全体で良い健康状態を生み出すための制度の条件は……

①対象を絞る・資産調査付きの選別的政策ではなく、普遍的な社会政策

より寛大にgenerous・より普遍的に国が社会的支出を行うほど国民の死亡率は低下。

福祉国家再分配政策により貧困を減らす

③比較的小さい所得の不平等をもたらす

④階級やジェンダーに応じて、また社会的に排除されている集団のために、機会及び結果の平等を重視する

⑤主に地方レベルの公共部門が広範な公共サービスを提供する

⑥社会的支出と社会的保護の重要性を認識している

                図表9-2 p.273 税と移転による貧困率の減少

                図表9−3 p.275 不健康の学歴差は社会支出で緩和される

⑦人生の行程を通して重層的に効果を発揮するようにする

 

→ 米国は貧困・不平等・セーフティネット不在で不健康。

同等の高所得な国16カ国の中で:出産時の有害事象、傷害・殺人、未成年の妊娠・性感染症HIV、薬物関連死亡、肥満・糖尿病、循環器疾患、慢性肺疾患、身体障害、のそれぞれで最低かそれに近い。

 

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 医療科学研究所SDHプロジェクト報告書より NEWS報告を参照している?

 

■経済的不平等*1

ピケティ『21世紀の資本』が示したこと:

資産と所得の不平等は拡大している。米国:1%の資産家による総取り。We are the99%s。

このままでは、資産の多くは、労働よりも相続によって得られるようになる。

→ 資本主義の前提である「機会平等の元での能力主義」が崩れる。資本主義がヤバイ。

→ よって、資本(ストック)に税をかけるべし

 

スティグリッツ&IMF「再分配こそ成長志向」

1%の上位層がケーキの取り分を増やしても問題はない。彼らは富の生産者であり、彼らを自由にすればケーキ自体が大きくなるからだ。——というのは間違い。

マーモット「再分配は資本主義にとっても必要だろうけど、健康の不公平の是正にとってももちろん大事」*2*3

 

■NEWSの教え:比例的普遍主義

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 医療科学研究所SDHプロジェクト報告書より

 

再分配するとして……

貧困層に<選択と集中>すればいい?— マーモット「NO」*4*5

貧困層だけに焦点を絞ると中間層の人々の不健康・不利益を見逃すことになる。

重要なのは社会的結束だ。

 

社会的経済的な不平等の拡大を放置すると、貧富の差で学校・世帯構成・移動手段・スポーツジム・休暇の過ごし方・態度が分断され、社会的結束が失われる。

格差社会であるヒヒ社会の「負け組」ヒヒは血中コルチゾール値が高い。これは、マーモットのホワイトホール研究の結果(下級公務員の職業ストレスによる健康被害説)と整合的。

 

キューバコスタリカ、チリの例。国民所得より社会制度設計が大事。 *6

 

#担当感想

小児科を回っている時。留学経験のある上級医が「アメリカは自己負担の国だった。小さい子を保育所に預けるにしても収入のかなりの部分を払う。そういうもの。日本は良いサービスに対して相応の対価を払うという発想が弱い。社会に甘えている」というようなことを言っていた。公平性の観点が全然なくて唖然とする。

留学経験者はアメリカを何か「進んでいる」と見做すことが多い気がする。HG読んでいたら、健康政策に関してアメリカを見習うところなんてほとんどないとわかるだろう。(基本真っ黒の背景の中で、点々と光っている取り組みはある。)

*1:再分配を嫌うひとよくわからん

小西:公平性嫌うひと何考えてるんだろうなあ。強欲なだけ?

東:経済成長にはアメリカン・ドリーム、つまり、出自によらず・能力と努力によって階層上昇ができるのだという幻想が必要で、再分配はその足を引っ張るから無し!、というのがよくあるタイプじゃないかな。ピケティに否定されたけど。あとはまあ、本書でも慎重になっているところがあるけど、共産主義アレルギーはいまでも根強くある。

小西:「みんなで貧しくなろう」論者扱いされたくない。

*2:完全にフラットを目指す?

天久:どれくらいの不平等なら認められると思っているんだろう。

東:完全にフラットがいいとは全然言ってない。ピケティを引いている:「社会的不平等が偶然の条件から生まれるのではなく、合理的かつ普遍的な原理によって生じるようにすることが重要だ」。合理的というのは、例えば、北欧のように健康格差があまり生じない範囲に収まっているってことじゃないかな。

*3:日本の評価

東:本章では、日本は社会的結束してる・普遍的社会保障ある・健康指標でサイコー、みんな見習おうと、書いてて、そこまでいいかなあと思いますよね。

天久:幸福度は低めだし、最近は格差社会論流行ってるよねー。みんなで貧しかった昔の話なんじゃない。

東:マーモットさん的には幸福度とか主観的な指標も是正する必要あるのだろうか…。「健康が公平で、だんだんと全体的に健康になっている社会が良い社会」という立場からすると、日本は良い社会。社会経済的にもアメリカ・ヨーロッパ的総取りは日本では起こってないし、社会的結束が強いから少し外れだけで格差を感じやすい、みたいなところも多少あるんちゃうかしら。もちろん、シングルマザーとか特定の社会階層・特定の地域の貧困は歴然としてあるし、対処していかないといけない。

*4:論証甘くない?

東:選択しないとコストかかりすぎて、結果的に最貧困層の取り分が減らない?、と言われたらどうするの?

天久:マも言ってるけど、「社会保障=上からの施し」という見方に陥らず、かつ、中間層が納得できる政策を打ち出すためのリアリズムじゃないかしら。

*5:保育園の点数

東:公立の保育園って、共働きかどうか、世帯収入がいくらか、親子に障害はあるか、等で点数がつけられて、点数の高い世帯から取っていく形になっている。設計だけみると、これぞ「ニーズに比例した普遍主義」。定員の少なさという重大な問題はあるけど。

*6:キューバの医療

東:米国並みの達成はすごい。けど、そこからさらに日本並みに追いつこうとすると、高度先端医療をしなくちゃいけなくて、医療費膨らみまくるんちゃうかな。その時に、国民所得低くても健康、と言ってられるのだろうか。