『経済政策で人は死ぬか?』第3章

担当:東

1997年 アジア通貨危機

IMF世界銀行はアジアやアフリカでも急進的な緊縮政策を推している。1990年代のアジア通貨危機においても、東アジアに対して、医療や社会福祉を含む政府支出の大幅削減を条件に、融資を行った。結果、緊縮を選択した国では、肺炎、結核HIVなどによる感染症死亡率が上昇した。

 

アジア通貨危機とは:

もともと1980年代に香港、シンガポール、韓国、台湾など東アジアの新興市場が世界中から不動産投資の対象になり、東アジアは著しい経済成長を遂げていた。しかし、90年代後半、住宅の売れ残り、ヘッジファンド空売りにより、金融危機が発生し、通貨が暴落した。通貨の暴落は、食料品価格の高騰につながり、各国で貧困率が急上昇した。例えばインドネシアでは:1997年 15% →1998年 33%。 

(要約自信ないです。アジア通貨危機 - Wikipediaの方が正確かも……)

 

東アジアの自然実験

金融危機に対して、タイ、インドネシア、韓国はIMFの条件を飲んで、融資を要請した。一方で、マレーシアは、自国のセーフティネットをむしろ強化し、市場に国が介入する独自路線をとった*1

4国はいずれもGDPが15%-30%の低下に見舞われていた。緊縮を採用した国では貧困率が軒並み2倍になった。一方で、マレーシアの貧困率はほぼ変わらなかった。

タイ、インドネシアでは食料価格、燃料価格の急騰で、栄養失調による死亡率の上昇、乳児死亡率の上昇、感染症死亡率の上昇が起こった。

 

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Infectious disease mortality rates, Thailand, 1958-2009. より

 

削減された医療費

タイは1980年代からHIV感染者が急増しており、1994年の調査では新規発症者が10万人、性労働者の1/3がHIV陽性だった。感染の97%は性労働者経由であったため、政府は都市部の売春宿に無料でコンドームを配り、着用させるキャンペーンを推し進めた。すると、またたくまに、性労働者の新規感染者が1%以下に減少した。

ところが、アジア通貨危機後の緊縮策によりHIV対策費は予算削減され、HIV患者が増加した。そして、様々な感染性疾患を合わせた死亡者数は上の表のように増加していった。

一方で、マレーシアは、医療費支出を増加させ、医療機関への受診率増加が18%増加した。タイにならったHIV対策にも予算を組んだおかげで、他国のようにHIV感染率が上昇することはなかった。

 

景気回復

もっとも早く景気回復をしたのはIMFに従わなかったマレーシアで、次はIMFにある程度譲歩させた韓国だった。IMFの条件により忠実に従ったタイ、インドネシアは景気回復が遅れた。

IMFの中でも東アジアへの介入に対する間違いは認識されてきており、2012年には、IMFの理事から、東アジア諸国に対して、IMFが指導した緊縮政策と自由化による予想を超えた経済損失に対する謝罪が行われた。

 

第一部担当感想
  • だいたいIMFが悪い。以後の章でも悪さをするので要チェック。
  • 「限られた医療費のなかで効率的な運用をしていくべき」というのは反論の余地がないが、その論に乗ると、どうせそんなに「効率化」できないのだから、結局致し方のない医療費削減を肯定することになりそう。であれば、防波堤として、本書のような大局的な見方を踏まえて置くことが大事だろう。
  • 最近、ひとり親世帯の生活保護費の全体的な切り詰めが行われたが、生活保護費についても「出すほうが、地域経済が回る」(受給させた方が当人の健康にも経済にもgood)と論じることができる(貧困と生活保護(43) 生活保護費は自治体財政を圧迫しているか? : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞))。まあ、本書の関心である国の財政支出と自治体財政では事情が違うけど、一つ参考になる事実ではあろうだろう。

*1:福富:どんな思惑でIMFの提案を受け入れたり拒否したりしたんだろう?

東:あんまり詳しくは書いてなかったね〜。マレーシア首相は「緊縮は効果的ではないし、不道徳だ」と言って拒否したらしいが…。本書では緊縮叩きをしているけど、一応、一定勢力が支持している立場だし、「お金ないから締め付けねば」というのは自然な発想ではあるし、融資もらえるし、まあ、明らかに不合理な行動というわけでもない、とは思う。