『経済政策で人は死ぬか?』第1章

本章では、1930年代のアメリカ、「大恐慌」の時代をみていく。

著者がBMJに載せた論文。この内容を一般向けに噛み砕いている章。以下、図の引用はここから。

 

不況は健康にいい!?

1929年の大恐慌以降、全死亡率は低下。あれれ???

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死因を細かくみると、大恐慌の前後で死亡率が上昇している死因と減少している死因があった。それらを総和すると、死亡率が減少する。

まず、この時期、長期的な変化として疫学転換が起こっていた。つまり、大きなトレンドとして、公衆衛生の改善による感染性疾患の減少と非感染性疾患の増加が起きている。われわれの関心は年単位の経済政策の変化と健康の関連であるので、感染性疾患の減少による死亡率低下は統計的に除去してみた。

 その上で、顕著だった死因の変化は、交通事故死亡率の減少、心臓疾患死亡の上昇、自殺死亡率の上昇だった。州ごとにみると、大不況の影響を強く被った州ほど、この傾向は強く現れた*1

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ニューディール政策の健康への影響

ルーズベルト大統領は1933年に大統領となり、即座にニューディール政策を開始した。具体的には:住宅計画、建設計画に予算をあて雇用創出し、食料費補助制度や生活保護制度を積極的に実施した。健康への影響はどうだったか?

全米で見ると1933年以降全死亡率上がってる。あれ?

実は、ニューディール政策の実施程度には州ごとに差があった。この実施状況の差を見なければ、ニューディール政策を正当に評価することはできない。

ニューディールにあてた予算と健康指標をプロットすることで、図らずも「自然実験」となった本政策の効果を評価できた。

結果、全米でみると、ニューディール政策に、一人当たり100ドル支出するごとに、1000人あたりの新生児死亡が18人減り、10万人あたりの肺炎死亡が18人減り、10万人あたりの自殺死亡が4人減る、といった効果が現れた。

また、経済も1933年を底として回復。アメリカ人の平均所得は10%上昇し、回復の下支えになった。

 

禁酒法と肝疾患死亡

ルーズベルトはイマイチなこともしている。禁酒法の撤廃である。

禁酒法はもともと1920年から施行されていた。州ごとに遵守程度が異なり、合衆国内でドライ派とウェット派に分かれていたが、ウェット派の州では自殺死亡率が高く、肝疾患死亡率も高かった。禁酒法撤廃後、全国的に肝疾患死亡は急増した。

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*1:不況による交通事故死の減少・自殺志望の増加の傾向は現代の大不況にも当てはまる。