単発読書会:『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』

担当:東

誰もが健康でありたいと願いながら、どうすれば健康になれるかについて正確なところを知りません。メディアでは、「健康になりたい、できればラクな方法で」という人情につけこんで、誤った情報が流布されています。…いや、他人事はよしましょう。本書を読んで、僕自身、友人や親戚に「デマ」を流していたことに気付かされて、何度もヒヤッとしました。

医学部では、病気になってからの療養食、食事制限についてはある程度ならいますが、健康でいるための食生活について、それほどしっかり習うことはありませんよね。本書は多数のメタアナリシスに基づいて、「ここまでわかっている、ここからわからない」というラインをしっかり引いています。

本書を読んで、チャチャっと食事の常識をUp to dateしちゃいましょう。

 

*本書の内容に関する著者のネット記事です。すごい注目度ですね。


 

以下、レジュメになります。

 

「その情報、ほんとう?」

炭水化物は健康に悪く、食べると太る ×

βカロテンやリコピンは健康に良い ×

果汁100%のフルーツジュースは健康に良い ×

誰を/何が信頼に値するか

医者や栄養士が正しいとは限らない

省庁のガイドラインも正しいとは限らない

一本の論文で「証明された」としても正しいとは限らない

エビデンスのレベルを理解しよう。

エビデンスのレベル

個人の経験、専門家の意見<観察研究<ランダム化比較試験(RCT)<質のよいメタアナリシス。複数の良質なRCTをまとめた質のよいメタアナリシスが「最強のエビデンス」。現在のところ、信頼できる研究によって「健康によい」と考えられている食品は5つしかない。

  • 野菜と果物(フルーツジュース、じゃがいもは含まない)
  • 精製されてない炭水化物(茶色い炭水化物)
  • オリーブオイル
  • ナッツ類

反対に、健康に悪いと考えられている食品は

  • 赤肉、特にハムやソーセージなどの加工肉
  • 精製された炭水化物(白い炭水化物)
  • バターなどの飽和脂肪酸

*「健康によい/悪い」=心筋梗塞脳卒中、糖尿病などのリスクをあげる/下げる

*「体によい/悪い」≠「食べるべき/食べてはいけない」。そもそも、一般的に、「である」と「べき」は厳しく区別しよう!

* 文中では各項目についてエビデンスの階層を明示しながら推奨/非推奨の議論をしている。本レジメで詳細は省くが、ここの「慎重さ」が本書の醍醐味であり、他の本にはないところ。

* 食行動を変えるには、がまんではなく、置き換えが効果的。 

成分信仰

・βカロテンを含む緑黄色野菜そのものは病気の予防に役立つが、βカロテンをサプリメントとして摂取すると、むしろ、膀胱癌や肺がんの発症率が高まる。

・果物の摂取量が多い人ほど糖尿病のリスクは低く、フルーツジュースを多く飲んでいる人ほど糖尿病のリスクが高い。

 ということを示すメタアナリシスがある。

一般の人も医療者も、つい「この成分が効いている!」という生化学的な因果関係に基づく説明を求めてしまう。マーケティングにおいても耳目を集めやすい。

しかし、本例のように、こと食事においては複雑な要素が絡み合っているため、「成分」から説明すると的外れ、ときに有害にさえなる。

「健康によい」というエビデンスがあるのは、「食品」であり、「成分」ではない。

健康によいものは、食品単位で摂取すべきである。 

 

日本食」が健康によい、というエビデンスは弱い。

健康にいいところ)赤肉やバターなどの油が少ない

健康に悪いところ)塩分と白い炭水化物が多い

提言:

 まず味噌汁と漬物を減らす。できれば無しにしよう。

 「ご飯はおかず。サラダが主食」と思うようにして、極力、白米は減らす。

 メインディッシュは従来通り魚でおっけー!

それでもなぜ日本人は健康的なのか?

Lancet「日本」特集号より

以下のような要因が日本人の健康さにつながっていると考えられている:

  • 高い教育水準

20世紀はじめに初等教育義務化

→ 戦後、中学校義務化、高校の進学率も向上

→ 母親の教育水準と識字率の上昇

  • 優れた公衆衛生

国民皆保険制度

整備された上下水道

母子保健

減塩キャンペーンと降圧剤使用により脳卒中の発症数低下

 *日本国民の平均血圧は1960年代後半から低下している

労働安全衛生法(1972年)・老人保険法(1982年)→年1の健康診断

ワクチンによる予防、結核対策

  • 地域社会の強い社会的結束(=低い犯罪率、低い失業率、比較的小さな収入格差)

精神的健康、歯の健康、身体機能の改善、所得格差の悪影響緩和に関連?

 

担当者感想

・『健康格差』の観点からすると、序章の「食事バランスガイド」の話が興味深い。白米摂取は少なければ少ないほど健康によいことがわかっているにもかかわらず、農林水産省が米農家の利益を忖度して白米1日3-5杯をおすすめしたという話。Political Determinants of Healthといえそう(文化的抵抗もあるな、Cultural Determinants of Health?)。とはいえ、精米しなきゃいいだけなんだし、それほど農家に不利益なさそう。本書がきっかけになって、意外と近い将来、スーパーで「デフォルト玄米、オプショナル白米」な状況になったりして。

・本書を読んで、自分の家では、米は玄米と白米のハーフアンドハーフ、夕食はサラダメイン、おやつはミックスナッツ無糖に変えました。

メンタルヘルスバージョンの一般人向けメタアナリシスまとめ本があったらいいなあ。F氏書いてくれないだろうか。本書と同じで、一次予防としてどんな生活習慣や環境を選べばメンタルヘルシーでいられる確率があがるか、どんなパートナーがメンタルヘルスにリスキーか、とか数値を示して書いてある。根拠が弱い言説は切って捨てていく。『心理療法がひらく未来』が近い気もする。……しかし、日常のことであっても、食事のように選べることばかりではなさそうな気がするな。