社会的処方

経済紙のエコノミストになんと「社会的処方」が取り上げられていたので紹介します。

www.economist.com

 

 

「タンゴ教室にウクレレレッスン……「社会的処方」が増えている!」というタイトルです。
 
「社会的処方social prescriptions」とは、例えば、診察室で患者さんが「さみしい、日頃話す相手がいない」と言ったら「では、このサークルはどうでしょう」と地域の資源を紹介してその場で連絡をとってしまうような対応の仕方です。医師がエージェント(代理人)になる感じ。健康の社会的決定要因に地域レベルでダイレクトに対処するわけですね。イギリスではこのような「処方」が制度化され、プライマリケアの領域で広がってきているようです。
 
具体的には、運動が不足しているなら、患者が望めば、ジムやスイミングスクールを医者がその場で予約するようです。運動しましょうと「指導する」だけじゃないんですねえ。患者さんがなんらかのアクティビティを望み、人を集めたいと思っているなら、仲間探し支援会社wellbeing社が手助けをしてくれるらしい。
 
メンタルヘルス対策としても色々な取り組みがあるようで、記事中では、絵画や彫刻のプログラムを提供するArts and Minds、link-worker制度が紹介されています。
 
link-workerが気になったので検索してみたら、日本医療政策機構の詳細な視察報告書が見つかりました。
 
この報告書によると……
  • 日本では、認知症の早期発見が進むにつれ、「早期診断、早期絶望」と称されるような、軽度認知症に対する支援の手薄さの問題が生じている。
  • とはいえ専門機関が対応するにはマンパワーが足りない。
  • スコットランドでは、非専門家のボランティアにトレーニングを施し、ケアワーカーになってもらう、link-workerという制度がある。いいかも!
  • link-workerは、認知症の当事者会が始めたもので、彼らは、診断後の不安な時期に患者の家に訪問し、今後の生活のこと・家計のこと・家族関係のことなどについて相談にのってくれる。
  • このシステムは、近年、公的医療(NHS)に組み込まれ、プライマリケア医が本格的に社会的処方できるようになった。
  • link-worker制度が生まれた背景には、スコットランドの「必要なことはまず取り組んでみる」という自主性の高さや、欧米一般のNPOへの社会的評価・期待の高さがある。
  • 日本にこういった制度を導入する場合、上からの画一的運用ではなく、現場主導・地域主導で、各自が自らの状況に合わせてアレンジして、取り組んでいく必要がある。
とのこと。ちなみに、日本ではボランティアというと無償で活動するイメージがありますが、欧米では大抵給料が払われます。ボランティア(志願)とチャリティ(慈善)が区別されているわけです。link-workerも、フルタイムで働き給料が出るようです。それでも医療費削減になるんですねえ。ほんとかなあ。
 
英国の医療制度、GP、NHS、NICEなどについてはこちら。(上)の中段に社会的処方のことも書いてあります。
家庭医というものが頼りになる何でも屋としての役割を持つことがよくわかりますね。『健康格差』で読んだ英国の惨状と印象が違うのがやや気になります。
(東)