健康格差 第7章
担当:福冨
老年期の健康格差を扱った章です。本書の中でも健康格差啓発活動の中でも、「(健康)寿命の格差」は象徴的な指標として使われていますね。人々が老年期を豊かに過ごすにはどうすればいいか、どんなことが課題になるかを探って行きます。
■老年期の健康格差
・老年期=人生全体の影響がありありと現れる →老年期の健康の不公平は重要!
・老いることはおそろしい?
「貧しく、惨めで、社会から孤立し、知力と体力が低下し、社会での役割を失う」?
→完全には間違ってはないが、高齢者の生活の多様性を捉えていない! その人が置かれた地域や社会集団によって老いの経験は大いに異なる。
・人々が医療や介護の最終段階を必要とする前に何が起きるかを探る(「原因の原因」)。特に、本書のテーマである 「社会の不公平が健康の不公平をもたらす」に沿う形で、高齢者の健康や心身の効果的機能に影響する環境の不公平に注目する。つまり、高齢者の健康と機能の国家間における不公平と、国内の社会集団間における不公平に焦点を当てる。
■高齢化の現状
・世界は急速に高齢化している。しかし、人口の高齢化は悪いことばかりでない。
2つの理由で祝福すべき
①人々が早死にしないということだから
②老年期は人生の素晴らしい時間になりうるから
ジェンダーについて
女性の方が生物として長生き
=女性への差別が大きいほど高齢者の運命が悪くなる
・国家間の不公平
60歳までに不公平なら余命は短い。
日本人は60歳までの健康において優れており、それ以降の余命も長い。ロシアはその逆。
① どんな年齢でも同じようなことが健康に影響する(直接的影響)
② 晩年の健康と幸福はそれまでの経験に左右される(累積的影響)
・社会集団間での不公平:高学歴—低学歴
最低の教育水準にある人の平均余命は国家間で大きな差がある。
国内でも学歴差で寿命の差がある。
・人生の質の不公平
長ければいいわけではない。質(=身体的精神的機能)も大事
地位が低いほど障害とともに暮らす年数が長くなる
・ELSA研究=老化に関するイングランド横断研究
社会経済的地位の高い人の健康水準は、地位の低い人の15年分若い健康水準
地位が高いと加齢による衰えがゆっくりになる。また、仮に衰えるスピードが同じだとしても、地位が高い人はもともとの機能が高いため、老年期でも機能が高い。
キケロが『老年について』で言う通り、老年期には身体的機能は失われるが、歳を重ねて得られるものもあり、例えば、知識や熟慮の能力は年齢とともに磨きがかかる。
しかし、この加齢の恩恵は社会的勾配に従う。
■何ができるか?
・老年期に限ったことではないが、公平な社会に求められているのは、最も恵まれた人々が享受している健康と機能の水準にすべての人々を達成させること。
高齢者に権限を持たせて居場所を持ち続ける権利を認めることが大事。
・健康な生活のための最低所得(ジェリー・モリス)*1
尊厳ある生活をするためには、孫にプレゼントを買うためのお金も必要!
高齢者をエンパワーメントするための介入ポイント
- 物質的エンパワーメント
* 仕事
世界的に見て、資産(主に住居と年金)からの収益で生きられるのはほんのわずかの人々の話→働き続けなければ生活できない。
よって、引退年齢を超えても働き続けるor 社会が引退年齢をあげる。
仕事には、技能と教育のある人、元気な人が求められる。これらの条件は社会的勾配に従う。*2
地位が高いとより元気で技能や教育がある可能性が高い→プラスの収入getでより豊か!
地位が低いとその可能性は低くなる→ますます不公平に→年金だけ。貧しい!
ちなみに、高齢者がより若い人の就職を邪魔している、席を譲らないという考えは間違い。一般に、労働市場への高齢者の参加が高いほど、より若い人の就業率も高い。Summary - Aging and the Macroeconomy - NCBI Bookshelf
* 年金
年金とは……将来の自分を現在の自分が支え、現在の労働者が現在の高齢者を支える仕組み。大抵の国で存在するが実施の仕方は国によって異なる。
現在の退職者のためのお金が不足するとき、3つの選択肢がある:長く働かせるか、年金受給者に与えないか、労働者からもっと取るか
国によって違う OECD:国民の貧困率—高齢者の貧困率のグラフ
最貧国での年金制度:身分証明書ない→もらえない。
受け取れる対象が少ない。
②心理社会的エンパワーメント: 健康行動と社会参加
⑴健康行動について
HALE projectの記念碑的論文:Mediterranean diet, lifestyle factors, and 10-year mortality in elderly European men and women: the HALE project. - PubMed - NCBI
Among individuals aged 70 to 90 years, adherence to a Mediterranean diet and healthful lifestyle is associated with a more than 50% lower rate of all-causes and cause-specific mortality.
70-90歳の間で、地中海食を食べかつ健康的な生活を送っている人は、そうでない人と比べ、死亡率が半分になる。
身体活動と喫煙、食生活には社会的勾配がある。
→老年期にも、心理社会的エンパワーメントとして、健康行動を取りやすくする工夫が必要。
二つの説:頭を使わないと認知機能が低下するのか?認知機能が低下したから頭を使わなくなるのか? どちらも正しい。
ref. ヴィクトリア長期追跡研究: Do changes in lifestyle engagement moderate cognitive decline in normal aging? Evidence from the Victoria Longitudinal Study. - PubMed - NCBI
認知的活動への参加は社会的勾配に従う=健康的な老年期における社会的勾配の原因になる。
⑵社会参加について*3
社会的統合によって死亡率は下がる。これも社会的勾配に従う
ELSA研究:低い地位の人ほど孤立。
③政治的エンパワーメント
政府は高齢者の権利や要求を無視できない。高齢の有権者は非常に増えている。
■全体的なコメント
#福富(担当)
老年期を迎える前に職場以外でも自分の居場所を見つけること大事。高齢者になってから見つけるのは難しい。歳を重ねると社会経済的地位の差がどんどん開く。身体的に衰えたときに教育が生きてくる。ーエンパワーメントのところがいまいち具体性がなく、問題に対してどうすればいいのかがわからなかった。
#天久
社会的勾配で人生が最初から最後まで決まってしまうことに対する問題を改めて感じた。年金制度も健康の公平性にとって良い方向に。
#小西
読み返したい。
#東
若者と高齢者の世代間対立がよく言われるが、まずは事実を把握しないとなあ。文中の「高齢者が席を譲らない説は嘘」って本当なんだろうか。年金制度ってどうなっている? これからどうなる? 「破綻」ってつまりどうなること?