健康格差 第5章

担当:東

『健康格差』4-7章はSDHがライフサイクルのそれぞれの時期でどのように効いてくるかを扱っています。幼児期(第4章)、学童期(第5章)、青年ー壮年期(第6章)、老年期(7章)。今回は教育がもたらす健康への効果についてです。

 

◼︎教育の効果:特に女性の教育

  • 「教育歴が短いほど寿命が短くなる」という健康の社会的勾配が途上国、先進国の両方で見られる。
  • 「家族の経済的社会的文化的地位ESCSが低いほどPISAの点数が低くなる」:優等生フィンランドにおいても社会的勾配は見られるが、ESCSの低下に対する学力の低下は、フィンランド(とマカオ)<英国、米国<スロバキア。問題を抱える子供達への手厚い教育が勾配の緩やかさに寄与している。
  • 教育によって特に女性は得られるものが多く……

物質的:お金になる仕事 栄養のある食事 が得られ、

心理社会的:いつ結婚するか、もしくは結婚しないかの自己決定 セクシャリティと出産の自己決定 産んだ子供を死なせずに済むこと 夫からの暴力に対して身を守ること

ができるようになり、

政治的:自分の社会や文化の価値を学ぶこと 政治的決定に参加し権利を主張すること

ができるようになる。 

  • データ:教育歴↑で、乳児死亡率↓ 出生率↓ 「妻がセックスを拒んだとき夫は妻を殴ることが許される」と回答する妻の割合↓

 

◼︎教育の世界的な状況(UNESCO2012)(UNDP人間開発報告書2013)

就学年齢6-11歳の子どものうち91%が学校に通っている(9%が通っていない)。

通っていないうちの半数はサハラ以南(南スーダンリベリアスーダンなど)のアフリカ地域に集中。人口増加、紛争や気候変動などが原因。「通っていない」内訳:通っていたが通えなくなった、今通っていないが将来通う可能性がある、生涯通う可能性がない、がそれぞれ1/3ずつ。

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  • 非認知的能力を育てる就学前教育はまだ普及していないが、途上国においても先駆的に導入している国はいくつかある。ケニアのムアナ・ムアンデプロジェクト、中南米キューバコスタリカ)では100%の参加率で、中南米で小学6年生の読解力トップ。
  • アクセスは改善したが、質はまだまだ。「どうすれば教育の質を高められるか?」は国や地方ごとに最適解が異なる。

#非認知能力を育てる支援って何があるの。→ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるか』を読むといいらしい(未読)。そのうちレビューします。家庭での育て方に対するアドバイスだけではなく、学校改革の必要性——学校が自己肯定感を育む場になるべきであるーーなど書いてあるらしい。

#「学校を変えて、教育の質を高める」ための一つの方法:始業時間を10時にする。

“Is 8:30 a.m. Still Too Early to Start School? A 10:00 a.m. School Start Time Improves Health and Performance of Students Aged 13–16”(Kelly et al., Front Hum Neurosci 2017) 13-16歳の児童を対象に始業時間を8:50から10:00に移すと、移行2年で病欠率が50%程度減少、学業成績のベースラインからの20%上昇(どちらもp<0.0005)。

 

  • 担当疑問 世界的な状況は上述のよう。では日本では。

■世帯収入と学力の関係

 

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佐藤一磨「学歴が健康に与える影響ー大学進学は健康を促進するかー」(国立社会保障・人口問題研究所)

逆の因果(不健康→低学歴)や交絡因子(時間割引率、リスク回避性向、家庭環境、親の学歴)などを補正した傾向スコアマッチング法による解析。

結果:大卒者の方が、主観的健康度が良好、肥満・飲酒・喫煙の割合が低く、スポーツを行う割合が高い。50歳以上の高齢層ではこの健康促進効果が高い。50歳未満では健康促進効果はやや限定的になる。男女別で見ると、学歴の健康に対する影響は女性より男性の方が強い。女性においては学歴と主観的健康度、肥満、飲酒に有意差なし。喫煙、スポーツは有意差あり。

#「フィンランドが教育でうまくいっているのは、学校のおかげというより、国民が比較的均質で子供の貧困率が低いおかげではないだろうか?…彼ら[フィンランドの校長や教員組合の人]は優しく私をたしなめた。学校の成果を、学校を包み込む社会や文化の影響から分離することはできません。」p.160

この論文では「単に進学するだけでこれだけ健康が改善する」ことを示している。あんまり効いてないのかなーという印象。就学前支援や学習支援の効果は「交絡因子」にまとめられたところにも効いていてもうちょっと健康改善に寄与する?