健康格差 第4章

担当:谷川

 

◼︎小児期の経験は成人期の健康に影響を与える

子どもが生まれ、育ち、発達する環境が大人になってからの健康および健康の不平等に大事であるという学者がいる。このトピックに関する具体的な研究で、大人の健康に影響を与えるものには以下の2つの道筋があると考えた。(フレイザー、クライド『一世代のうちに格差をなくそう』)

① 累積効果(ドミノ倒し):幼少期の発達が劣悪だと、学校の成績が振るわず、成人期に地位の低い仕事に就くことになり、収入も少なくなり、生活環境が悪化する。出発点が到着点に影響を与えるだけでなく、有利不利が蓄積していくことになる。

② 潜伏効果(神経発達への彫り込み):幼少期の逆境的な出来事が後の人生における健康に影響する。(ACE study)

 

・生涯にわたる不利の蓄積が不健康と犯罪の両方につながる

米国のボルティモア市では、以下の表のように著しい不平等が明らかである。

 

アブトン・ドルイド

ローランドパーク

世帯収入(中央値)

17000ドル

90000ドル

母(父)家庭

50%

7%

少年非行による逮捕

30%

2%

高校での20日/年欠席

40%

8%

大学進学率

10%

75%

殺人事件(/1万人)

40件

4件

平均寿命

63歳

83歳

このような環境の違いだけでなく、アブドン・ドルイドの住民は黒人が、ローランドパークは白人が占めていることも見逃してはならない。米国では、蓄積する有利不利が人種にも密接に関与しており、大きな原因は広範で制度的な差別にあるといえる。

→ 黒人エンパワの必要性

 

・潜伏効果

ニーチェ「我々を殺してしまわないものは、我々を強くする」

マ「強くしない。弱くする。病気にする」

逆境的小児体験を多く経験すればするほどうつ病や自殺未遂のリスクが上がる。

 

◼︎乳幼児期の発達の不平等

月齢22ヶ月の幼児の認知スコア(知能指数のようなもの)を10歳まで追跡調査したところ、社会経済的地位が高い家族の子どもは、月齢22ヶ月時点でスコアが高くても低くても、10歳になる頃には高い水準を保つようになるが、社会経済的地位が低い子どもは、月齢22ヶ月時点でスコアが高くても低くても、10歳になる頃には、低スコアを示すことになった。

→ 月齢22ヶ月の認知スコアより、社会的経済的地位が10才時の認知スコアにとって重要。

 

◼︎社会的勾配はいかにして体内に入り込むか

神経学的に、脳は経験を彫り込まれる。つまり、経験の結果として脳の構造は変化する。

発達中の子どもが決定的な時期に適切な環境刺激に曝されることが必要であり、聴覚・視覚・感情抑制機能がすべて正常に発達するためには、生後2~3年の間に適切な刺激が必要である。その次に、言語・数学・社交的能力が発達し始める。このとき、子どもの家族の社会的階層が低いほど正しい入力刺激を得る可能性が下がる。

また、環境は脳だけではなく、エピジェネティックに遺伝子発現にも変化をもたらす。

 

◼︎乳幼児の発達の問題について何ができるのか?

二つのレベルで対処する

① そもそもの貧困の削減

子どもの身体的・心理的社会的・情緒的発達のために良い。

②子育ての支援*1

貧困と乳幼児期の劣悪な発達のリンクを断ち切る。

成功例*2:仏国では幼稚園に通う子どもの全員が認知スコアで恩恵を受けているが、中でも貧しい子どもはより多く恩恵を受けており、その後の学校の成績で豊かな家庭の子供との格差が小さくなっている。

 

☆担当感想:資本主義の大前提である「機会の平等」が守られず、大人の不平等の拡大が次世代の人生を左右するようになっている。よって、この点については、資本主義の世であっても不平等に対して政治的・社会的アクションが必要であると主張できる。

*1:#東 スティグマ問題へのマーモットの答えは覚えておいていいかも。ある貧困層の女性から「マーモットは私が貧乏だというだけで悪い母親だと非難している」と言われた。それに対する返答。

・事実として良質な育児は重要だが、貧困層ではあまり見られない。

・非難は助けにならない。育児が行われる環境が大事だ。

・貧困は宿命ではない。貧困の水準が同じでも、一部の子供は他の子供よりうまくやっている。

現在虐待防止のため愛の鞭ゼロキャンペーンが行われているが、上の観点からすると、2章の「健康10か条」と同様、あまり役に立たないのではないか。「子供の言い分を気長に聞きましょう」とか。

*2:ほんとの注: 日本の保育園の効果については最近論文が出ている。保育園が利用できると、「子どもの攻撃性・多動性が低下する。特に親の学歴が低い場合に」「親のしつけの質が改善し、子育てストレスが低下する」という本書を補強する内容。去年流行った「保育園落ちた」論で保育園の必要性として触れられていたのは、少子化対策男女共同参画という論点だったが、育ちの公平性のためという論点を付け加えられると思う。