健康格差 第1章
担当:東 2017/12/9
社会経済的状況のよさを横軸に取り、縦軸に健康状態を取ってグラフを書く。
すると、大抵、以下のようになる。
このグラフの曲線の傾きを健康の社会的勾配と定義する。
■社会的決定要因/社会的勾配の意義:すべての人が関与している
例えば、貧困という言葉は「貧困層、貧乏人」を連想させて、属人的な反応を呼び起こす。非難を含むトーンであれば「貧困層は無気力だから、貧しくて病気がちなのだ」等。一方、同情を含むトーンであれば人は(自分とは違う)「貧しい人々」を心配し出す。
しかし、社会的決定要因/社会的勾配という言葉は議論の方向性を変える。
収入を横軸にとり、健康状態を横軸にとり、全ての人をプロットする。すると、貧困というカテゴリーを使うことなく、定量的に、健康の不平等が見えてくる。
社会的決定要因/社会的勾配には、本来可能な健康水準に達していない私たち全てがその形成に直接的に関与している。
ex1. 貧困国の5歳児未満死亡率の統計:ウガンダやインドは最富裕層でもペルーの最貧困層より死亡率が高い。この点は最・最貧困層だけをターゲットにしてしまうと見落としてしまう。求められているものは、全ての層における必要に比例した努力だ。(比例的普遍主義p.278)
ex2. 先進国における地域差
英: 地下鉄のジュビリー線に乗ると、ロンドン中央部のウェストミンスターから東に一駅いくごとに平均寿命が1年ずつ下がる。*1
米: メリーランド州モンゴメリー群、一マイル移動するごとに平均1年半ずつ平均寿命が延びる。旅の始点と終点では20年の差。
■社会的決定要因/社会的勾配の意義2:社会がうまくいっている程度の指標になる
GDPは社会の成功度を表す指標として不足がある;所得が高くてもイマイチな国
国民所得と平均余命でプロットした曲線:1万ドルまで正比例するが、その後は平らになる。例えば、国民所得1万ドル以上の国の中で、米国は、男性成人死亡率(15歳から60歳まで生きる確率)がトルコ・チュニジア・ヨルダン・ドミニカと同ランクで、キューバやチリより悪い。ロシアはさらに悪く、1/3が60歳までに死ぬ。
GDP以外で何がよい社会の指標になるか?;健康がよろしかろう
なぜなら……
私たちはお金以上に健康に価値をおく。
また、他の多くの価値を置く事柄、例えば、乳児期の健全な発達・教育・良好な仕事環境は、健康の改善と関係がある(すべてSDH)。
社会の性質と健康の関係はとても緊密で、双方向に利用できる。健康水準や健康の社会的勾配の大きさによって、社会がどれだけうまくいっているか評定できるし、反対に、健康を改善させたいと望むなら、健康を左右する社会的条件が重大に見えてくる。
■貧困のなにが不健康や健康の不平等につながるか? ー貧困による無力化によって
社会経済的階層が低いほど、人々は自分の生活をコントロールできない(無力化されている)。
アマルティア・センとタウンゼントの間で、絶対的貧困と相対的貧困のどちらがより重要かという論争があった。センの「所得面での相対的不平等がケイパビリティにおける絶対的不平等に変換される」という折衷的結論で決着がついた。『HG』的に翻訳すると、「あなたの健康にとって重要なのは、どれだけお金を持っているかのみならず、持っているもので何ができるかである」。
無力化によって健康格差が生じる
世界の疾病負担研究GBD2010:世界規模での病気の主な原因の推定
高血圧、喫煙、室内/大気空気汚染、果物摂取不足、アルコール
肥満、空腹時高血糖、幼児期低体重、運動不足、塩分過剰摂取
これらが、世界の不健康を生み出している。
今日世界的に疾病構造は感染症や飢餓から慢性疾患に変わってきている。
そして、我々が経験する疾病の「原因」は無力化に関連している(=社会経済的状況が「原因の原因」である)。
無力化の三つの次元
私の議論は、無力化に取り組むことが健康の改善、健康の公平性の改善にとって決定的に重要だということだ。無力化は物質的・心理社会的・政治的という3つの次元で生じる。
物質的次元;お金など。
心理社会的次元;自分の生活をコントロールできること。
→p.106,『いつも時間がないあなたにーー欠乏の行動経済学』
貧しい人はなぜ自滅的な行動をするのか?
——貧困におかれると人は短期の生き残りに専心するため。
政治的次元;自分自身、自分のコミュニティ、自分の国のために発言ができること。
*以降の章で
女性のエンパワp.145- 労働者のエンパワp.173- 老年者のエンパワp.213-
*「欠乏」の話、湯浅誠さんの「<溜め>がないのが貧困」と同じかも。前述の本の中で色々な心理実験を引いて示しています。