3分でわかる!『あなたが救える命』
The Life You Can Save in 3 minutes by Peter Singer
功利主義の立場から「豊かな国の人々は、自分の生活が深刻に害されない範囲まで、最貧困国の人のために寄付をするべきである」と説いているピーター・シンガー『あなたが救える命』の紹介動画です。簡単な英語ですが、動画のスクリプトを翻訳してみました。ざっと読んでから動画みるといいかも。
同じ名前のWebサイトへのリンクが動画の最後に貼ってあります。寄付の誓いをたてたり、「いくらで何ができるか」を知ることができたりします。
---以下、翻訳---
あなたは、仕事に行く途中、池のそばを通りがかりました。
驚いたことに小さな女の子が池で溺れていました。
あなたは周りを見渡します。「親はどこだ!?」
しかし、そこには誰もいません。
あなたは、彼女を助けるために池に入りますか?
「もちろん」とあなたは答えるでしょう。
しかし、待ってください。
もしあなたがお気に入りの靴を履いていて、池に入ることでそれを台無しにしてしまうとしたら、どうでしょう? しかも、高額な靴です。
「靴なんか人の命に比べたらなんでもないものだ」と、あなたは答えるでしょう。
しかし、待ってください。
その子どもの溺れている池がアフリカにあったとすればどうでしょうか。
あなたは答えを変えますか?
もし、その子どもが死にかけていて、その原因が、彼女の親が下痢に対する簡単な治療さえ与えられないほど貧しいことだったとしたら、どうですか?
そして、あなたが、靴に高額なお金を払う代わりに寄付をすることで、彼らにその治療を与えることができるとしたら……。
これは「仮定」の話ではありません。
今まさに子供達は死んでいってます。
そして、この死は防ぐことができます。
あなたが命を救うことができます。
(すでにお持ちのお気に入りの靴は捨てなくてもいいですよ。)
疑念を晴らしておきましょう。
『援助は本当に効果的なのか?』
『依存を強めるだけじゃないのか?』
『無駄になるんじゃないか?』
『貧困は底なし沼だ!』
『貧困は無くならない!』
『援助なんて無意味だ。』
『援助なんて焼け石に水だ……』
これらの手強い問いには少し長い答えが必要です。
しかし、ここでは短い答えを提示しましょう:
もし「焼け石に水」だとして、その「水」であなたの子どもが救われるとしたらどうでしょうか。その「水」を惜しみますか?
毎日、援助によって、実際に一つ一つの命が救われています。
名前を持った人が、その人が生きていることで喜ぶ家族がいる人が、救われています。
もしあなたが救われる側であれば、あなたは援助が無意味だなんて思わないでしょう。
『あー 罪悪感を抱かせて操りたいわけね』
いいえ。いいニュースがあります。
貧困は終わらないものではありません。
世界の貧困を半分にするために必要なお金は、年間約1250億ドルです。
これっていくらくらいでしょうか。
例えば、アメリカ人がお酒に使っているお金は年間約1160億ドルです。
それでは、あなたは貧困撲滅のためにいくら寄付をするべきでしょうか。
収入の50%を寄付するべき?25%?5%? それか1%?
(私たちのサイトで、収入に応じたおすすめ寄付額が計算できます!)
私たちは助けになるべきなのです。
そして、私たちは、自分の家族を犠牲にすることなく、助けになることができます。
さあ、やりましょう。今日から。ともに。
誓いましょう。何千人もの人が誓いを立てています。
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#より「長い」議論を知りたい人はこちら
あなたが救える命: 世界の貧困を終わらせるために今すぐできること
- 作者: ピーターシンガー,Peter Singer,児玉聡,石川涼子
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2014/06/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『経済政策で人は死ぬか?』第3章
担当:東
1997年 アジア通貨危機
IMFや世界銀行はアジアやアフリカでも急進的な緊縮政策を推している。1990年代のアジア通貨危機においても、東アジアに対して、医療や社会福祉を含む政府支出の大幅削減を条件に、融資を行った。結果、緊縮を選択した国では、肺炎、結核、HIVなどによる感染症死亡率が上昇した。
アジア通貨危機とは:
もともと1980年代に香港、シンガポール、韓国、台湾など東アジアの新興市場が世界中から不動産投資の対象になり、東アジアは著しい経済成長を遂げていた。しかし、90年代後半、住宅の売れ残り、ヘッジファンドの空売りにより、金融危機が発生し、通貨が暴落した。通貨の暴落は、食料品価格の高騰につながり、各国で貧困率が急上昇した。例えばインドネシアでは:1997年 15% →1998年 33%。
(要約自信ないです。アジア通貨危機 - Wikipediaの方が正確かも……)
東アジアの自然実験
金融危機に対して、タイ、インドネシア、韓国はIMFの条件を飲んで、融資を要請した。一方で、マレーシアは、自国のセーフティネットをむしろ強化し、市場に国が介入する独自路線をとった*1。
4国はいずれもGDPが15%-30%の低下に見舞われていた。緊縮を採用した国では貧困率が軒並み2倍になった。一方で、マレーシアの貧困率はほぼ変わらなかった。
タイ、インドネシアでは食料価格、燃料価格の急騰で、栄養失調による死亡率の上昇、乳児死亡率の上昇、感染症死亡率の上昇が起こった。
Infectious disease mortality rates, Thailand, 1958-2009. より
削減された医療費
タイは1980年代からHIV感染者が急増しており、1994年の調査では新規発症者が10万人、性労働者の1/3がHIV陽性だった。感染の97%は性労働者経由であったため、政府は都市部の売春宿に無料でコンドームを配り、着用させるキャンペーンを推し進めた。すると、またたくまに、性労働者の新規感染者が1%以下に減少した。
ところが、アジア通貨危機後の緊縮策によりHIV対策費は予算削減され、HIV患者が増加した。そして、様々な感染性疾患を合わせた死亡者数は上の表のように増加していった。
一方で、マレーシアは、医療費支出を増加させ、医療機関への受診率増加が18%増加した。タイにならったHIV対策にも予算を組んだおかげで、他国のようにHIV感染率が上昇することはなかった。
景気回復
もっとも早く景気回復をしたのはIMFに従わなかったマレーシアで、次はIMFにある程度譲歩させた韓国だった。IMFの条件により忠実に従ったタイ、インドネシアは景気回復が遅れた。
IMFの中でも東アジアへの介入に対する間違いは認識されてきており、2012年には、IMFの理事から、東アジア諸国に対して、IMFが指導した緊縮政策と自由化による予想を超えた経済損失に対する謝罪が行われた。
第一部担当感想
- だいたいIMFが悪い。以後の章でも悪さをするので要チェック。
- 「限られた医療費のなかで効率的な運用をしていくべき」というのは反論の余地がないが、その論に乗ると、どうせそんなに「効率化」できないのだから、結局致し方のない医療費削減を肯定することになりそう。であれば、防波堤として、本書のような大局的な見方を踏まえて置くことが大事だろう。
- 最近、ひとり親世帯の生活保護費の全体的な切り詰めが行われたが、生活保護費についても「出すほうが、地域経済が回る」(受給させた方が当人の健康にも経済にもgood)と論じることができる(貧困と生活保護(43) 生活保護費は自治体財政を圧迫しているか? : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞))。まあ、本書の関心である国の財政支出と自治体財政では事情が違うけど、一つ参考になる事実ではあろうだろう。
『経済政策で人は死ぬか?』第2章
第2章ではソ連崩壊後の市場経済への移行による健康への影響をみていく。
元になった論文は、こちら。
ソ連崩壊後の死亡危機
ソ連崩壊後、男性の平均寿命は1991年の64歳から1994年の58歳へと縮んだ。
このような結果は決して必然ではなく、回避できるはずのものだった。共産主義体制崩壊後に死亡危機()が発生したのは、資本主義への移行そのものではなく、移行の具体的な方法に原因があった。
ロシアの死亡危機の特徴は、生産年齢の男性に集中して死亡率が上昇していたこと。
特に25歳から39歳までの男性では、ソ連崩壊前後で90%の死亡率上昇となっていた。
上昇していた死因は急性アルコール中毒、外因死、急性心不全だった*1。
ロシアで何が起こっていたのか?
経済:GDPは三分の一以上縮小。1994年には人口の4分の1が1日2ドル以下での生活を強いられていた。IMFと世界銀行主導の急激な市場主義化=価格の自由化と民営化が行われた。ジェフリー・サックスはこの指導を「ショック療法」と称した。セーフティネットが崩壊。
「ショック療法」には共産主義時代の国の統治構造を壊すという狙いがあったが、内部関係者が裏取引で、国有企業を引き継ぎ、事業に投資することなくもなく、ただ資産を剥奪し、スイスの銀行口座の残高を増やしただけ…ショック療法を選択した国では、一人当たりGDPの増加が16%落ち込んだ。
アルコール政策の変化:1985年ゴルバチョフのアルコール依存症撲滅キャンペーンが行われた。前表での平均寿命の伸長はおそらくこの政策で説明できる。しかし、国民には不評であり、1987年に打切り。再度平均寿命は低下した。1991年以降の死亡についても、アルコール関連死の増加で40%の死亡率上昇が説明できる。
失業率の増加:失業者は就業者と比べ6倍の死亡リスクがあった。失業すると社会保障から一切切り離された。
この死亡危機は避けられないものだったのか?
回避しえた。
というのも、同じ同盟国の中でも、ゆっくりとした市場化を進めた、ポーランド、ベラルーシ、スロベニア、チェコでは死亡率の上昇がみられなかった。
一方で、ロシアと同様に急進的な市場化を行った、カザフスタン、ラトビア、エストニアでは、ロシアと同様の死亡率上昇傾向がみられた。具体的には、ロシアやカザフスタンはソ連崩壊前後で18%の死亡率上昇した。
癌などの短期的な変化で変わらない疾病についてはこのような死亡率の変化はなく、自殺、心臓疾患、アルコール関連死が鋭敏に反応していた。数字でいうと、10万人あたりそれぞれ5人、21人、41人の死亡数増加となった。
この死亡率上昇は、経済規模の違い、各国の経済動向、過去の経済危機、民族紛争や軍事衝突、都市化の度合い、外国からの直接投資などなど様々な要因を調整しても一貫した傾向だった。
つまり、それぞれの群における違いは、市場化を漸進的に行ったか、急進的に行ったか、という点だけだった*2。
ロシアは現在も経済の停滞が続いており、生産年齢男性の死亡率は高く、結核や多剤耐性菌の感染率上昇などもみられる。ショック療法の失敗は明らかだ。
*1:東:アルコールとうつ病、自殺の関係については本ブログでも以前に取り上げた。沖縄のアルコール問題 - 健康格差読書会
*2:別の地域・時期になるが、中国も斬新的な市場主義の導入で経済成長、平均寿命が伸長。
『経済政策で人は死ぬか?』第1章
本章では、1930年代のアメリカ、「大恐慌」の時代をみていく。
著者がBMJに載せた論文。この内容を一般向けに噛み砕いている章。以下、図の引用はここから。
不況は健康にいい!?
1929年の大恐慌以降、全死亡率は低下。あれれ???
死因を細かくみると、大恐慌の前後で死亡率が上昇している死因と減少している死因があった。それらを総和すると、死亡率が減少する。
まず、この時期、長期的な変化として疫学転換が起こっていた。つまり、大きなトレンドとして、公衆衛生の改善による感染性疾患の減少と非感染性疾患の増加が起きている。われわれの関心は年単位の経済政策の変化と健康の関連であるので、感染性疾患の減少による死亡率低下は統計的に除去してみた。
その上で、顕著だった死因の変化は、交通事故死亡率の減少、心臓疾患死亡の上昇、自殺死亡率の上昇だった。州ごとにみると、大不況の影響を強く被った州ほど、この傾向は強く現れた*1。
ニューディール政策の健康への影響
ルーズベルト大統領は1933年に大統領となり、即座にニューディール政策を開始した。具体的には:住宅計画、建設計画に予算をあて雇用創出し、食料費補助制度や生活保護制度を積極的に実施した。健康への影響はどうだったか?
全米で見ると1933年以降全死亡率上がってる。あれ?
実は、ニューディール政策の実施程度には州ごとに差があった。この実施状況の差を見なければ、ニューディール政策を正当に評価することはできない。
ニューディールにあてた予算と健康指標をプロットすることで、図らずも「自然実験」となった本政策の効果を評価できた。
結果、全米でみると、ニューディール政策に、一人当たり100ドル支出するごとに、1000人あたりの新生児死亡が18人減り、10万人あたりの肺炎死亡が18人減り、10万人あたりの自殺死亡が4人減る、といった効果が現れた。
また、経済も1933年を底として回復。アメリカ人の平均所得は10%上昇し、回復の下支えになった。
禁酒法と肝疾患死亡
ルーズベルトはイマイチなこともしている。禁酒法の撤廃である。
禁酒法はもともと1920年から施行されていた。州ごとに遵守程度が異なり、合衆国内でドライ派とウェット派に分かれていたが、ウェット派の州では自殺死亡率が高く、肝疾患死亡率も高かった。禁酒法撤廃後、全国的に肝疾患死亡は急増した。
*1:不況による交通事故死の減少・自殺志望の増加の傾向は現代の大不況にも当てはまる。
『経済政策で人は死ぬか?』まえがき・序
担当:東
5月6月は
を読んでいきます。三部構成ですので、三回シリーズで読みます。
<目次>
第一部 過去の「自然実験」に学ぶ
第二部 サブプライム問題による世界不況に学ぶ
第三部 不況への抵抗力となる制度
本書の主張
非常にシンプル。
① 不況時の緊縮政策は短期的に健康被害を生むし、長期的には目的に反して経済停滞を長引かせる。
② 一方で、不況時のセーフティネットへの予算配分(反緊縮政策)は、短期的に人々の健康状態を維持し、経済を刺激するだけではなく、長期的にも債務削減になり、景気回復が早まる。
③ よって、命を守るためにも経済を守るためにも、不況時にセーフティネット予算は削るべきではない。
一般的に、不況は健康に悪いと考えられている。不況によってうつ病、自殺、アルコール依存症、感染症など、数多くの健康問題が生じると思われている。だが、これは正しくない。…研究を重ねた結果わかってきたのは、健康にとって本当に危険なのは不況それ自体ではなく、無謀な緊縮政策だということである。
この本の特色は、経済理論から演繹的に「こうだ!」と決めつける本ではないところ。以上の主張を古今東西の様々な「自然実験」を通じて証明していく*1。
用語と前知識の整理
財政緊縮策とは:
政府債務や財政赤字に対して、健康保険、失業者支援、住宅補助等の政府支出の削減で応じる経済政策のこと。IMF推奨。対義語は財政刺激策。
サブプライムローン問題に始まる世界金融危機に際して、イギリス、ギリシャ、スペイン、イタリアは緊縮策、スウェーデン、アイスランド、デンマーク、オバマ政権のアメリカは財政刺激策を採用した。また、歴史を振り返ると、リンカーンはニューディール政策で財政刺激策を講じ、ソ連崩壊後のロシアは急速な市場主義化という緊縮策を講じた。
自然実験とは:
データ分析の方法論の一つ。疫学で対応するのは「後ろ向き要因対照研究」?
本書では、時間的空間的に条件が揃えられている二つの地域で、片方は緊縮策、もう片方は反緊縮策をとった例を探してきて、それぞれの政策がどれだけ健康指標へ影響したか比較することを指す。単に一つのケースを取り上げて「歴史的な教訓」を引き出すより、エビデンスレベルが高い。RCTには当然劣るが、歴史的イベントからなるべく多くを学ぶ方法としては「次善の策」といえるだろう。
今回は、第一部(1-3章)をまとめる。
第一部見取り図
曝露 |
曝露群 |
対照群 |
結果1: 健康への影響 |
結果2: 経済への影響 |
第1章 ニューディール政策(経済刺激策) |
ニューディール政策支持の州 |
ニューディール政策不支持の州 |
支持群の方が、自殺率・新生児死亡率が軽度 |
(全体平均でアメリカ人の収入10%アップ、他国より早めの景気回復) |
第2章 |
急進的に移行
ロシア |
漸進的に移行
|
急進的に移行した群の方が、 自殺率 心臓疾患率 アルコール関連死亡率 が高かった。 |
急進的に移行した群の方が、GDPが伸び悩んでいる。 |
第3章 アジア通貨危機後の緊縮策 |
タイ (韓国) |
マレーシア |
緊縮策を受け入れた群の方が 感染症死亡率 乳児死亡率 が高くなった。 |
緊縮策を受け入れた群の方が、景気回復が遅かった。 |
*1:松谷:金を出すことは経済のためにもいいはずだ、という主張はしてきたが、エビデンスはちゃんと踏まえてはなかった。エビデンスを知れてよかった。
東:「セーフティネットを守ることが経済を守ることになる」というのは「風が吹けば桶屋が儲かる」的な意外性がある。解析して数字を出す意義がある部分だろう。
単発読書会:『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』
担当:東
誰もが健康でありたいと願いながら、どうすれば健康になれるかについて正確なところを知りません。メディアでは、「健康になりたい、できればラクな方法で」という人情につけこんで、誤った情報が流布されています。…いや、他人事はよしましょう。本書を読んで、僕自身、友人や親戚に「デマ」を流していたことに気付かされて、何度もヒヤッとしました。
医学部では、病気になってからの療養食、食事制限についてはある程度ならいますが、健康でいるための食生活について、それほどしっかり習うことはありませんよね。本書は多数のメタアナリシスに基づいて、「ここまでわかっている、ここからわからない」というラインをしっかり引いています。
本書を読んで、チャチャっと食事の常識をUp to dateしちゃいましょう。
*本書の内容に関する著者のネット記事です。すごい注目度ですね。
以下、レジュメになります。
「その情報、ほんとう?」
炭水化物は健康に悪く、食べると太る ×
βカロテンやリコピンは健康に良い ×
果汁100%のフルーツジュースは健康に良い ×
誰を/何が信頼に値するか
医者や栄養士が正しいとは限らない
省庁のガイドラインも正しいとは限らない
一本の論文で「証明された」としても正しいとは限らない
→エビデンスのレベルを理解しよう。
エビデンスのレベル
個人の経験、専門家の意見<観察研究<ランダム化比較試験(RCT)<質のよいメタアナリシス。複数の良質なRCTをまとめた質のよいメタアナリシスが「最強のエビデンス」。現在のところ、信頼できる研究によって「健康によい」と考えられている食品は5つしかない。
- 魚
- 野菜と果物(フルーツジュース、じゃがいもは含まない)
- 精製されてない炭水化物(茶色い炭水化物)
- オリーブオイル
- ナッツ類
反対に、健康に悪いと考えられている食品は
- 赤肉、特にハムやソーセージなどの加工肉
- 精製された炭水化物(白い炭水化物)
- バターなどの飽和脂肪酸
*「健康によい/悪い」=心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などのリスクをあげる/下げる
*「体によい/悪い」≠「食べるべき/食べてはいけない」。そもそも、一般的に、「である」と「べき」は厳しく区別しよう!
* 文中では各項目についてエビデンスの階層を明示しながら推奨/非推奨の議論をしている。本レジメで詳細は省くが、ここの「慎重さ」が本書の醍醐味であり、他の本にはないところ。
* 食行動を変えるには、がまんではなく、置き換えが効果的。
成分信仰
・βカロテンを含む緑黄色野菜そのものは病気の予防に役立つが、βカロテンをサプリメントとして摂取すると、むしろ、膀胱癌や肺がんの発症率が高まる。
・果物の摂取量が多い人ほど糖尿病のリスクは低く、フルーツジュースを多く飲んでいる人ほど糖尿病のリスクが高い。
ということを示すメタアナリシスがある。
一般の人も医療者も、つい「この成分が効いている!」という生化学的な因果関係に基づく説明を求めてしまう。マーケティングにおいても耳目を集めやすい。
しかし、本例のように、こと食事においては複雑な要素が絡み合っているため、「成分」から説明すると的外れ、ときに有害にさえなる。
「健康によい」というエビデンスがあるのは、「食品」であり、「成分」ではない。
健康によいものは、食品単位で摂取すべきである。
「日本食」が健康によい、というエビデンスは弱い。
健康にいいところ)赤肉やバターなどの油が少ない
健康に悪いところ)塩分と白い炭水化物が多い
提言:
まず味噌汁と漬物を減らす。できれば無しにしよう。
「ご飯はおかず。サラダが主食」と思うようにして、極力、白米は減らす。
メインディッシュは従来通り魚でおっけー!
それでもなぜ日本人は健康的なのか?
以下のような要因が日本人の健康さにつながっていると考えられている:
- 高い教育水準
20世紀はじめに初等教育義務化
→ 戦後、中学校義務化、高校の進学率も向上
→ 母親の教育水準と識字率の上昇
- 優れた公衆衛生
国民皆保険制度
整備された上下水道
母子保健
減塩キャンペーンと降圧剤使用により脳卒中の発症数低下
*日本国民の平均血圧は1960年代後半から低下している
労働安全衛生法(1972年)・老人保険法(1982年)→年1の健康診断
- 感染症による死亡率の低下
ワクチンによる予防、結核対策
- 地域社会の強い社会的結束(=低い犯罪率、低い失業率、比較的小さな収入格差)
精神的健康、歯の健康、身体機能の改善、所得格差の悪影響緩和に関連?
担当者感想
・『健康格差』の観点からすると、序章の「食事バランスガイド」の話が興味深い。白米摂取は少なければ少ないほど健康によいことがわかっているにもかかわらず、農林水産省が米農家の利益を忖度して白米1日3-5杯をおすすめしたという話。Political Determinants of Healthといえそう(文化的抵抗もあるな、Cultural Determinants of Health?)。とはいえ、精米しなきゃいいだけなんだし、それほど農家に不利益なさそう。本書がきっかけになって、意外と近い将来、スーパーで「デフォルト玄米、オプショナル白米」な状況になったりして。
・本書を読んで、自分の家では、米は玄米と白米のハーフアンドハーフ、夕食はサラダメイン、おやつはミックスナッツ無糖に変えました。
・メンタルヘルスバージョンの一般人向けメタアナリシスまとめ本があったらいいなあ。F氏書いてくれないだろうか。本書と同じで、一次予防としてどんな生活習慣や環境を選べばメンタルヘルシーでいられる確率があがるか、どんなパートナーがメンタルヘルスにリスキーか、とか数値を示して書いてある。根拠が弱い言説は切って捨てていく。『心理療法がひらく未来』が近い気もする。……しかし、日常のことであっても、食事のように選べることばかりではなさそうな気がするな。
健康格差 第4章(福井チーム)
4月6日金曜日に行った健康格差読書会についてレビューする。
尚、ダイヤの印の見出しを「節」、節の中の印の無い見出しを「ブロック」と呼ぶ事にする。今回は黙読にて読み進め、節毎若しくは数ブロック毎に感想交流・議論を行った。
●1章114ページ1行目 「無意識のうちにこのような事態を容認している」とある。
我々は前章で職業による収入格差は、責任や仕事内容によってある程度考慮されても仕方ない、と結論付けた。
しかし、今回は、健康格差に至ってしまう程の収入格差は容認すべきでない、と議論された。
●第2章
1ブロック 117ページ7行目 「公務員はいきなり大人になるんです~」の文章だが、昔、筆者は幼少期が大人の健康の社会的勾配に与える影響を考慮していなかったという事だろうか。
2ブロック 生涯を通じた不利の蓄積が犯罪と不健康の両方に関連している。
3ブロック 幼児期の逆境的体験が多くなればなるほど種々の疾病のリスクが高まる。
121ページ後ろから5行目 「一般に、子供時代の逆境的な体験が多い人ほど、アルコール依存、ドラッグ注射の経験、50人以上セックスの相手がいることを認める割合が多かった」とある。私は、子供時代の逆境的な体験がアルコールやドラッグに関係するのは理解できたが、それがセックスパートナーの人数に関係するのは意外だった。
●第3節
1ブロック SDHが健康に影響している。単純化すれば、家庭が裕福かどうかで子供がその後健康であるか否かが決まる。
2~4ブロック 経済的な余裕がないと、裁量がなく、子供に言葉をたくさんかけられない。それ故に、「生活保護の家庭では子供の気持ちを削ぐ言葉がより頻繁に」掛けられているのではないか。
130ページ1行目 「育児の特質はそれが行われる環境によって形成される」とある。これは、貧困家庭で育った子供は、自分の子供も貧困家庭で育てることになる、と言い換える事はできないだろうか。この点を議論し、貧困が貧困を生むのではないかと言う結論に至った。
また、貧困家庭では余裕がないために、本書で書いてあるような事を教えても、裁量が無いので、エンパワメントされないため、有効に使えないのではないか。しかし、124ページ図表4-1が示す通り、環境次第で子供は健康に育つので、環境整えることが大切である。
ただ、どのようにして環境を整えれば良いのだろうか。
●第4節 飢餓しないために稼ぐにせよ、豊かな国で仕事と生活のバランスに悪戦苦闘するにせよ、母親でいる事は難しい。
この節では、「子供にとって最も好ましい結果が、母親と父親が同じ世帯に住んで共働きをしている家族」と言う事実が意外であった。
●第5節 行動遺伝学者によると、「子供への愛、ぬくもり、気遣いは全て無価値である」とされる。しかし、遺伝子も大切かもしれないが、育つ環境も大切である。どちらがより大切という事はない。
●第6節 子供が育つ環境がその後の社会的勾配に与える影響に関しては医学的にも裏付けがある。
●第7節
1~2ブロック 大切な事は貧困を減らす事である。
貧困を無意識に容認せずに、SDHの1つとして問題にして考えていく。持っている知識を駆使して貧困を減らす。イングランドでの成功モデルもあるので、成功する可能性がある。
●第8節 世代間の社会的流動性が小さい程、貧困は連鎖する。
社会的流動性を大きくする事は、個人の裁量を大きくする事になり、不平等度を低くする。表では、日本は世代間の所得弾力性が英国米国フランスに次いで高い結果となっているが、これを是正する事について、私達は個人の裁量を大きくしてエンパワメントを持たせるために、ある程度の是正はされるべきであるとの見解に至った。
健康格差を無くすために、貧困を減らす必要があり、貧困を減らすために、乳幼児の発達を良好にする必要がある。学校でより恩恵を得られるようにするために、あらゆるレベルで乳幼児の良好な発達を促す行動が必要である。
《まとめ》
乳幼児の発達がその後の健康に相関している。
乳幼児の発達は貧困が生む育児の環境(不利の蓄積)に因るので、貧困の連鎖を断ち切るために貧困は減らすべきである。
イングランドの成功例でも示されたが、実現するためには政府の介入が必要であろう。しかし、政策の方向性の明示や予算の使途の開示等、透明性のある政府でなければならない。
次回の予定
未定
次回も今回と同じく黙読にて進める。
(鈴木)